2013年10月9日水曜日

ロゼストオーダーメイドスーツ Vol.35

S部長とスタートした理想のモデル作り。まずとりかかったのはサンプルを作るのでも型紙を前にあーだーこーだ言うのでもなく、当時私が目標にしていたイタリアの某メーカーのジャケットをS部長に普段使いしてもらうところからスタートしました。理由は当時の国内工場で生産されていたジャケットは往々にしてハンガーにかけている時は綺麗に見えるのですが長時間着用していると肩周りが疲れてくる欠点があったからです。ジャケットで重要なのはハンガーにかけている見た目ではなく人間が着用した際に立体的で美しいシルエットが出る事、そして着疲れのしない事。その2点を新モデル開発にあたりS部長と共通の目標にする為にまず目標とする着心地の共有化を図ろうという事になったからでした。

S部長にジャケットを渡して2カ月くらい経ったでしょうか・・・ある日S部長から連絡があり、面白いものを入手したからとの事。聞けばイタリアの高級既製服メーカーが軒並み使用している芯地を探し当て、サンプルが手に入ったので一度見て欲しいという内容でした。
私自身、それまでイタリアのジャケットを分解してはパターンを真似、縫製を真似て何とか同じようなシルエット、着心地のものをと模索していた中で、芯地に関して言うと硬さの違いはあれど、それ自体がさほどジャケットのシルエットや着心地に影響を及ぼすものという認識はありませんでした。なのでS部長から芯地を入手したと言われても「なるほど」、「ふーん」というくらいにしか想わなかった記憶があります・・・

後日、S部長は自慢げに私のところにその芯地を持って来られ、「五十嵐さん、これで作ったらあの着心地になるかも知れません」と切り出したのでした。
「ん?」頭の中では芯地でそんなに変わるもんかなと若干疑問を抱きつつも、失敗続きのモデル作りの旅の道中にひょっこりと現れた目の前にある一見普通にしか見えないその芯地を前に、「もしかすると出来るかもしれませんね、是非お願いします!」と言うしかなかったのでした・・・


                                                             つづく